ふくしまの話を聞こう3-第一部大森さん講演

司会)
 では早速講演のほうに移りたいと思います。
 まず、ひとつ目の講演ですけれども、テレビユー福島報道局長の大森真さんより、「福島の報道、中央の報道、その温度差」というタイトルでお話しいただきます。
大森さん、よろしくお願いします。
「福島の報道、中央の報道、その温度差」

大森)
 テレビユー福島の大森と申します。よろしくお願いいたします。
 実は始まる前にここの、今、地下で昭和40年代の新宿というですね、写真展をやっていまして、私ちょうど昭和39年東京オリンピックの年に小学校1年生で、父親の仕事の関係で、東京で小学校時代を過ごしまして、見たらば公園で遊ぶ子どもとかですね、授業風景とかの写真があって「あれ、おれがいるんじゃねぇかな」と思って。でも杉並区だったので多分違うと思いますが。そんなわけで、一番内部被ばくした小学校時代を送った世代の一人であります。
 今日は、古舘さんの知らないパワーポイントで、一応資料をちょっと作ってはみたんですけど、作ったあとに、「あれ?こういう話ってここに来られる人たちにはもう、釈迦(しゃか)に説法かな」とちょっと思ってしまったもんですから、一応お手元のほうに多分資料も行っていると思いますが、資料集として、荷物ですけれども、お持ちいただければという感じで、かなり脱線しながらお話をさせていただきたいと思っています。ちょっと座ってお話しさせていただきます。

 私はあの震災の日、金曜日でしたので、当然会社におりました。そしてその頃は報道からちょっと出てまして、編成部っていうところにおったんですけれども、あの地震があって、そのあとテレビ局にマスタールームっていう、全部の電波を受けたり出したり、最後の……最初の入り口でもあり出口でもあるっていう部屋があるんですが、その日はそこにずっと詰めていました。 そしてマスタールームには、いわゆるお天気カメラのリモコンがあるんですね。その中に原発の監視カメラがありまして、実はそのときそれを私が動かしてまして。それで3時半頃ですかね、もう時間的にはいまいち覚えてないんですけれども。あそこって湾っていうか入り江みたいになっていまして、ちょうど原発とそのカメラの間が入り江みたいになっているんです。その先っちょに小良ヶ浜(おらがはま)っていう、昔、ぐるっと街道何万キロとかいう番組で取り上げられたちっちゃい漁港があって、そこの漁港のところにカメラがあるんです。
 だからそこから原発をずっと見てると手前はずうっと海なんですね。その海が、3時半ぐらいだと思うんですけれども、もう真っ黒に泡立つみたいになって、それが画面で見えるんです。それで「ああっ、これは来るな」と思って、しばらくしたところに、岸壁に津波が来て、あの映像、テレビでご覧になった方もいらっしゃると思いますが、J系のテレビでもしご覧になってた映像だったら、あれ私が撮ってたということなんですけど。何か変な話ですけど、来たときに「ああ、やっぱりな」みたいな感じがありました。
 それでその晩もずうっとマスタールームに詰めていて、そのマスタールームには緊急地震速報の受信機があるわけですね。そうするともう日本というか、だいたい中部から上のところでもうあっちこっちで地震警報が出るんですよ、速報が。もうあれを見ているときにはほんと「これ日本沈没するんじゃないかな」って、ほんとにあのときはそんな思いがあって、あの晩は非常に怖かったなっていう覚えがあります。

 ちょうど1年たって、2年前の春に報道に戻って、またニュースに直接関わるようになったんですけれども。ちょうどうちみたいな小さい局ですと、部長とか局長とか言っても、ずっと椅子に座っているわけではなくて、その日の編集長をやったり、デスクという仕事をやったりということもせざるを得ないわけなんです。
 ある日というか、5月12日ってなってますね、福島市立○○小学校でですね〔※〕、1、2年ぶりに屋外で運動会が開かれるということになりました。それで、そういう地方のニュースを全国放送で載せることを、僕たちは業界で「のぼり」っていう言い方をするんですが、キー局のほうからのぼりの要請がありまして、昼のニュースで放送しました。
「2年ぶりの屋外運動会」ニュースをめぐって

 そうしましたところ、そのキー局のデスクから「全然マスクしてないじゃないですか。もう今福島でやるんだったらもうマスクしながらじゃないと運動会ができない、っていう異常さがなかったらニュースにならないじゃないですか」っていう電話がきまして。「××Kはマスクの画がいっぱい映ってましたよ」って、もうそれを聞いたときに、非常に、ものすごく怒りましたし、また一方で「ふうん、中央ってそういうことをニュースとして求めているのか」と、再確認したという。あれが非常に、いまだにちょっと私の不信感の根底にあります。
「実際は「低学年の玉入れは~」ダストサンプリングデータ表

 実際は、そこの小学校では、震災の前から低学年の玉入れっていうのは、マスクしてるんですよ。だからもちろん玉入れを撮れば、マスクしている画は撮れたわけですし、NHKもそれを……あーNHKって言っちゃったよ……使ったわけなんですけど。ちっちゃい子どもって、下におっこった玉とかすぐ口の中に入れちゃったりするもんだから、低学年の玉入れっていうのは昔からマスクをしてやってましたと、学校にもそういう話は聞いていましたので、あえてそれをとらえる必要はないということで、うちはやってなかったらば、普通の画を撮ってたらば、そういう言われ方をしたというのが、私のキー局とのあまたけんかしている原点にあるんですが。
 ちなみにその日、ご存じの方もいらっしゃると思いますけれども、福島市の方木田(ほうきだ)というところで、24時間のダストサンプリング、大気中のセシウム、当初はヨウ素もやっていましたが……今は全然出ませんし……を測っています。この日も当然ありまして、これが0.0015Bqくらいかな、1立方メートルあたりくらいです。ここでもし24時間、外で運動会をやっていたとして、内部被ばくは0.0008μSvということで、ほとんど、それでも気にする方は気にするかもしれませんが、この程度ということです。

「再浮遊による吸入被ばくは落ち着いて来ている」

 ちなみにこの再浮遊での吸入被ばくっていうのは非常に落ち着いてきていまして、福島大学で気象学という学問をやっていらっしゃる渡邊明先生という先生、おつきあいがあるんですが。渡邊先生はこの方木田のよりも、もっと低いところまでの検出限界でのダストサンプリングを続けてらっしゃいます。何のことはない、フィルターをですね、長い時間、ゲルマにかけているっていうことなんですけど、それでやったところ、昨年の平均、といってもこれ、データをいただいたときには大体8月ぐらいまでしかなかったんですが、そこまでの平均で1立方あたり0.00027Bqということで、まあのその例の運動会のときに比べてももう桁がひとつ落ちているという状況になっています。 仮にこれ1年間、戸外で空気を吸い続けた場合ですと、まぁ0.054μSv、やはり1μSvよりも全然低いと。ちなみにこれは、いわゆる血液への移行係数がFASTっていう、速いというやつで計算しているので、これSLOWってことになるとそれだけ残るということになりますから、もうちょっと上がりますけれども、それでもまぁ一桁程度の違いということで、どっちにしろ1μSvには年間でならないというような、状況で。人によって考え方はあるでしょうが、私は今、福島市でマスクをする必要というのは、少なくとも放射性物質を吸わないためのマスクをして防護する必要というのは、私はまったく意味はないというふうに考えています。まぁ人それぞれだとは思います。  ただし、うちの家族は私以外全員花粉症ですので、全員マスクしてます。はい。
「いい情報はなぜ全国に伝わりづらい?」

 こういう、今言ったことも本当は良い情報と思うんですけど、なかなかそういうのが全国に伝わっていかない、福島から出て行かない。福島の人はある程度わかっているけれども、出て行かない。
 どうして出て行かないのだろうか。バッドニュースしかニュースじゃないのだろうか。そういうことが、震災以降、この仕事をしていて感じることです。
 本当に良いデータ、良いというか、実際のデータはたくさんわかってきています。さすがに震災の夏から秋ぐらいまでは、ほとんどデータがなくて、そのときには、実際にどの程度の規模だったかということがわからなかったわけですが、大体、暮れくらいまでには、ほぼ、ある程度判断の材料になるデータというのは、大体出そろってきたのかなぁという感じがしていたのですが。いまだにそれがなかなか伝わっていかないということに、非常に忸怩(じくじ)たる思いもございます。

 例えばホールボディカウンター(WBC)の結果であるとか、陰膳調査の結果であるとか、また、農産物のモニタリングであるとか。また、外部被ばくを見ても、ガラスバッジの結果とか、多くの自治体でやっていて、その結果もまとまっています。それから、それぞれに積算線量計を持っていて、自分たちでそれを見ることも見ると言うこともできる。そういうデータは、決して悲観するべきデータではない、と思っているんですが、なかなかそれが広まっていかないというのに、この商売をやっている人間として、かなり、本当に残念だなと思っています。

「ひらた中央病院WBC結果」

 このへんは、見ていただくとわかりますが、ひらた中央病院でのホールボディカウンターの結果です。いろいろは言いませんけれども、いまや、99.7%の方がNDだと。検出下限300Bq/Bodyですけれども、検出される人は、もう0.3%。19歳以下の未成年に関しては、ゼロという状況ですし、BABY SCAN(ベイビースキャン)という、子ども専用のWBCが去年の暮れから運用が始まっているんですが。3月の頭の時点で聞いたときには、185人測ってやはり全員がNDだったと聞いています。
 あの機械は、検出下限が50Bq。実際には、本当はやろうと思えば、20数Bqくらいまで落とすことができると聞いていますけれども、実際は、50Bqで運用していて誰も出ない。この50Bqとはどういう意味かというと、要は体重10キロ〔※㎏〕の子どもでも、キロ〔※1㎏〕あたり5Bqしかない、ということですよね。もし出たとしてですよ。それを見ると、某説を唱える方には、キロ〔※㎏〕あたり10Bqで心臓に異常が出るかもしれないとかですね、子どもだとそれは5Bqだとか、そういう話を唱える方もいらっしゃいますが、正直そのレベルにすらなっていないというのが、今の福島の大方の状況だと。

 ちょっと話を戻しますが、この300Bqで、99.7%がNDというのは、「おぉ3σ(シグマ)かよ」、ということで笑っちゃいますが、ということは、どういうことかというと、みんな299Bqだということでは絶対にないということ。恐らく、平均すると大人で二桁であろうということは、大体、統計的に想像がつくデータです。大人は、体重が大体60キロ〔※kg〕から70キロ〔※kg〕あるので、大人の人もまず間違いなく、キロ〔※kg〕あたりの被ばくというのは、一桁。それも下のほうだろうというのが大半であろうというのがこれからわかる。
 また、ここには出ていないが、ベイビースキャンも50〔※Bq/Body〕で、そうだということは、お子さんたちもせいぜい一桁の下のほう。そういうことは、常識的にはわかる。それが今のホールボディカウンターの状況です。

※σ(シグマ)は標準偏差で、3σは平均±標準偏差の3倍のこと。

「コープふくしまによる陰膳調査」

 見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。「コープふくしま」というところで陰膳調査を毎年、というか半期ごとにやっているんですけれども、これ、今出ているのは、ぱっと見て見えるのは、何でこんなにいっぱいあるのか、これはカリウム40。それぞれの食事にカリウム40が含まれているのか。では、セシウムはどこにあるかというと、この4つ(丸で囲んだ部分)。カリウムに比べるとはるかに少ないということが、これでわかる。
 田崎さんがいるから、言うのはあの……なんなんですけど、簡単に言うと、カリウムとセシウムで同じBqだったらば、せいぜい倍くらいの差しか影響はないということはわかっている。これを見ると、どう見てもその半分にもいっていない。カリウムに比べての生体的影響というのは非常に小さいということが、出ている家でもわかるわけです。ちなみにここが一番高いご家庭でしたが、間違えているので134と137逆ですので直しておいてください。今朝来るときの新幹線で気がつきました。
 1年間同じ食事をずっと食べたとしても、0.04mSv。40μと言うことですね。ただ、これをご覧いただいてわかるように、本当に、1Bq未満のご家庭が圧倒的に多いわけで、このご家庭も、ある意味たまたまこの日の食事に入っていた。逆に言うと、今のところ出ていないところでも、1年のうちに何回かは出る可能性は当然あると思います。ただ、それだとしても、毎日こういうもの食べるという状況には今の福島はない、ということはこれを見てもおわかりいただけると思います。

「農林水産物モニタリング「ふくしま新発売。」サイトページ」

「ふくしま新発売。」サイト    http://www.new-fukushima.jp/

「農林水産物モニタリング 農産物データの表」

 福島の農林水産物のモニタリングのページ。これ県のHPの中に載っています。たまたまランダムに、一昨日、一昨昨日〔※ H26年4月11日または10日〕かな、の1ページ目と2ページ目です。別に少ないところを選んでとってきたわけでもなんでもないです。これを見ますと、ほとんどが検出せず。
 2つありました。検出。クキタチナという野菜が、キロあたり5.8〔※ Bq〕。それから、タラの芽が14.7〔※ Bq/kg〕ということでありました。まあ、そういう、どうしても検出されたものばかりニュースになってしまうんですけれども、その裏にはこれだけの不検出のものがある。その中にあって、検出されるものがあるということをご理解いただきたいと思います。

表「25年度の全モニタリング結果」

 ちなみに、昨年度にやった全モニタリングの月別の結果です。大体出るものが決まって、わかっているんですよね。こんなところで、穀類は4483件調べて55件基準超えがあった。これは全部大豆です。
 それから、やはり水産物というのは、そこそこ超えます。ただし、見てもらうとおわかりいただけると思いますが、8500〔※ 件〕あまり調べたサンプルのうちの237〔※ 件〕が100Bqを超えていて、それ以外の8280〔※ 件〕については出ていない。100Bqには達しなかった、ということです。
 山菜もやはり超えるものがあります。
 それから、この玄米、米ですね、28袋。合計629〔※ 袋〕調べているということで、全袋検査してるじゃないのとご存じの方は思われるかもしれませんが、全袋検査した中で、その中でスクリーニングレベルを超えたもの、100Bqを超えているかもしれないなというレベルのものを、これは機械によって違いますけれども、それを新たにゲルマにかけたところ、それが629袋で、そのうち28袋が、100〔※ Bq〕を超えていた、というような状況です。
 あと、ちょっと水産物でお気をつけいただきたいのは、今、試験操業というのを福島でやっていて、試験操業と言いながら、実際にそのセシウムを調べて基準以下であれば流通もしているが、この試験操業とこのモニタリングとはまったく無関係です。この中には、試験操業区域ではないところの魚とか、試験操業でとっていない魚もとにかくモニタリング目的で漁をして、それを調べて237〔※ 件〕になっているということについては、気をつけてください。

「福島市ガラスバッジ結果(中学生以下)」

 今度、外部被ばくのほうですが、この福島市のガラスバッジの結果。
 これ、福島市だけじゃなくて、県もそうなんですけど、発表の仕方が自治体でバラバラなんですよね。 バラバラだし、ほんと、わかりづらいので。これ、なんとか統一してほしいなあというのが。これはいろんな……大きなデータにならないという面があって。これはうちのニュースなんかでもよくその話をですね、まあ、別に県にいじわるするわけじゃないですけど、これはもう必要なことなんだから、ちゃんと比較のできるようなデータに統一してほしいということを言い続けているのですが、どうもなかなかふるわなくて。
 これも非常にわかりづらいデータなんですけど。23年度には、3カ月で0.26〔mSv〕。ですから1年にすると1.04〔mSv〕かな。24年が3カ月で0.14〔mSv〕。ですから、1年すると、0.56? それで25年度は0.11(mSv)ということで、もう、外部被ばく、小中学生、0.5〔mSv〕を切るような状況に、平均ではなっています。また、右の横のところにもありますけれども、年間に直すと、1mSv未満が93%以上いるし、99%以は2mSv未満ということになっている。
ばっと見たらもう30分になりそうなのでばんばん飛ばします(笑)。

「D-Shuttleで測った「私の」線量」

 でも、せっかく僕のだから言います(笑)。これ、D-シャトル。ご存じの方いると思います。1時間ごとのを測れる線量計です。これが1月と2月。まずこちらが1月の分です。非常に、宮崎先生〔※ 文末※5参照 ※註3〕なんかに言わせると「つまんないデータだよね」とすごく言われるくらいなんですけど。それでも見ていればわかることがあって。例えばあそこ、昼間低いですよね(スライドを示しながら)。(スライド上で線グラフの)上にも書きましたけど、うちの社内は大体0.1〔μSv/h〕ぐらいしかないので。うちに帰ると右のように(※※居間0.2μSv/h弱,寝室0.15μSv/h,自宅屋外0.3弱~0.5強μSv/h)なっている状況なので。だから、正月休みは何となく高い。この日、10日から11日にかけてちょっと低いな、夜なのに……東京でライブをやってました(笑)。

そして2月。やや右のほうにポコッと出てる(高い)のは、鹿児島出張に行くので飛行機に乗りました。それで、ちょっと見て、何となく感じると思うんですが、2月の7日8日あたりから、何となくこの、鹿児島出張に行くあたりまで、1月に比べてちょっと低めなんです。この頃、すごい雪だったんです、福島。積雪の影響です、これ、間違いなく。じゃ、ちょっと飛ばします。

「福島の小児甲状腺がんは多発なのか?」

「例は少ないが・・・」

 小児甲状腺がん。もう、これについては皆さんご存じでしょうけれども。
 最初、この甲状腺検査を始めた頃に、A2問題っていうのが実は福島で結構問題になって。いわゆるA2判定の。4割近くいたのかな。それは5ミリ〔※ ㎜〕以下の結節、もしくは20ミリ〔※ ㎜〕以下の嚢胞と。実際にはそれはほとんど嚢胞です。全部と言っていいぐらい嚢胞ですけれど。それがA2という判定になって。それがわからないということで、非常に県内が不安になったんですけど。
 実は今の福島県内では、あまりその甲状腺がん、先ほどもちょっと言いましたとおり、74人、ということになっているんですが、比較的、僕が見ている感じ、また、人から聞く感じでは、あのA2問題のときよりは、落ち着いて受け止めているような感じがします。福島県の人は、ですよ。なんか、外の人のほうがずいぶん、重く受け止めてらっしゃる方が多いような感じがしますけど。それは多分、県立医大なんかもそうですけど、最初のうちはすごい大人数での説明会みたいな、対応をしてたんですが、最近、学校ごととか、学年ごととか、そういう、少ない人を対象の説明会をすごく頻繁にやるようになったんですよ。だからそれが結構、理解を深めたのかなあというふうに感じていて。やっぱり、医大もそういう点なんか、がんばってるなあというふうに思って見ています。

 僕らとしてはそこでなにをやっていけるかというと、報道として、甲状腺がんって、どういうがんなんだろうとか、そういうことをキチッとやっぱり説明して、そういうサポートをしていきたいなと思っています。以前、神戸の隈病院の宮内先生、宮内院長(註1)にインタビューをして、甲状腺がんが非常に穏やかながんであることとか、実を言うと、持っていても、一生発病しないケースも非常に多いがんであるとか、そういうようなことについて、特集をしたことがあるんですが。やはりそういった対応というのはこれからもしていきたいなあというふうに感じています。

「同じことを報道してどうして違う?」新聞記事

 これ、一時、話題になったんですが…あ、30分だ、終わろう(笑)。

もう、これ、震災の年です。夏休みに長野に行った子どもたちを信大で調べたらば、「甲状腺機能に変化10人」、というふうに左側、これは信毎さんの記事です。まったく同じものを、右側のは福島民友ですが、「甲状腺 異常なし」と。同じニュースがどうしてこうなっちゃうんだろう(笑)と思うんですが。要はこの、「変化」。前を知らないのに変化ってよく言えるな、というのが第一印象だったんですが。実を言うと、これが出たときに、信毎さんがこの記事を出したときに、すべてのテレビ局、キー局、全国ニュースで後追いで放送しましたけれども、なんかよくわからないので、僕もまだ当時報道じゃなくて、編成にいたんですけども。信大に電話をして内容を聞いて、取材をして。そうしましたところ、まったく民友さんと同じような話で、要は異常値といっても、異常値から百倍も超えてれば、それは問題ですけど、異常値からホントに、1割ちょっと、前後するのは当然あるわけですよ。そういったものについて全部、変化というような表現をしていたわけで。それはちょっと違うんじゃないかなあと。それを言ったらばもう、私なんか異常値だらけで、特にγGTP(ガンマジーティーピー)は下手すると4桁になりそうなので、このくらいの、もっと大きい活字で出さないといけないような状況です。はい。





 あとはストレスの問題です。ちょっとご覧いただけばわかりますが、まだ福島の、特に保護者の皆さんは大きなストレスを持っています。そしてこの県民健康調査。いつの間にか管理が取れちゃいましたけど、でアンケートしたもの。間もなく2014年のもまとまるとは言ってましたけど。これ、上のほうが、がんの発症など、どのぐらい起こると思いますか。棒グラフの左のほうは、可能性は低いでしょう、と。右のほうは、可能性はすごくあるでしょう、と。そのスパンの中にあるわけですけれども。若干は、左寄りには、2年でなってはきているわけですけど。まだまだやっぱり、がんなんかも、2割くらいの方が起こると思っている、非常に思っている。もっと、ある意味問題なのが下のほうの遺伝に影響が出てくると思いますかというのが、まだ、4分の1の人が可能性は非常に高いんじゃないかと思ってる。やっぱり、このあたりのストレスというのが、逆に、こういうことを感じてしまうというストレスが、本当に下手するとがんを起こすんじゃないか、というふうに私はとても心配しています。

「増加続く震災関連死」

まあ、震災関連死と、よく問題になっていますけれども、いまや、直接死を上回る数になっていて。この1691人、この中にはもちろん、いろんな要因で亡くなられた方はいるんですが、そこに対して、精神的な打撃というものが、その要因のひとつになったというケースというのは、決して少なくないだろうと。ご存じのように、この中には、自殺と、正式に自殺と認められた人というのもおかしいですが、そういう方が48人含まれている、ということです。

「福島で報道にあたる上で意識していること」

 福島で、本当はここが、本当のところだったと思うんですけれど。まずはできるだけ定量性に基づいて報道していこうよと、ということを部員にはよく言っています。よく、「これまでで最高の」とかですね。「1週間前の10倍の」とかですね。僕らもやりがちなんですけれども、果たしてその意味って、どういう意味なんだ、ということをキチッとわかった上で、淡々と報道していこうと常日頃お話をしています。

 また、そしてこのスケール感とか、僕、よく相場観という言葉を使うんですけど。やっぱり、この事故自体、ものすごくひどい事故だとは思うんですけど。ただ、じゃあ過去の知見とか、チェルノブイリのときとかと比べて、どういう相場にあるのか。それはそれぞれがやっぱり、持っていないといけないよ、という話をしています。

 それから、このへんがやっぱりホントは本題なのかな。
 「報道は中立であるべきだ。両論併記、意見の分かれた問題は、両論を併記すべきだ」と。これはずっと言われて、僕もそういうふうに言われて。記者をやってきたわけですけど。
果たして、ここに例として書きましたけど、赤と青を5:5で混ぜれば紫になりますけど、赤1に青9、まあもっといえば、赤1に青99だったら、絶対紫にならないわけですよ。青なんですよ。でも今の報道って、ある意味、その、1:99の青であるはずなのに、無理やり紫にしてしまっているような、そういうところがすごく、僕は目について。そういうことは駄目よ、という言い方をしています。

 これもですね、「報道というのは社会の木鐸(ぼくたく)たるべし」ということを言われますし、まあ、権力とか、行政とか、大企業とかそういうものに、立ち向かうというの? すごい思い上がった言い方だなと思うんですけど。チェック機能というのは、これは当然、でも、重要なものなんです。それはとても重要なことなのはわかっているし、もうそれでずっと報道というのは、戦後の平和の中でそういう形でやってきたのは事実ですよね。でも、今やっぱり、ひとつ報道を間違えることによって、下手すると、読んでいる人を不安で殺すんじゃないか。そういうことを思わないで報道している、自分の報道が人を傷つけることがあるかもしれないということを忘れている。とにかく、独善的な正義感。「おれってかっこいいよね」それでやっちゃっているような記事が目立つような気がして、そういうことは止めようね。そういうことをよく言っております。

 要は、そういうような報道って多分、自分が書いている記事の向こうに、福島の人たちは、あの人この人、自分の家族、友達、そういう顔って見えてない。そういう人たちがどういう顔をすると思っているか、っていうことは、頭の中にない。やっぱり、それが結構、中央と僕らとの温度差というのを感じることにつながっていると思います。

「もちろん国・東電への怒りはある…」

 もちろん、「あんたら怒らないの?」と言われたら、怒っているんですよ。国や東電に対して非常に怒ってます。僕だって怒っています。怒ってるけど、僕らには目の前に放射線があって、それと戦って日常を取り戻さないとならないんだから。そういうときに、まあ、迷惑な正義感、要らないです。はい。

 例えば、汚染水問題。ずーっと問題になっているわけですけど、僕らからすれば、これって福島の人にとっては、漁業はどうやって復活すればいいかっていう、そういう問題なんです。それで食べている人がたくさんいるんだから。食べているって、魚を食べている(という意味)じゃないですよ。生活している、という(意味の)食べている。僕らにとっては、直接そういう問題なんです。だからそういうことのためには、例えば、ストロンチウムとか、トリチウムとか、どんな放射性物質なんだ、定量的に見てどういう影響があるんだ、とか。それで、実際にどれだけ魚介類に移行して、どれだけ内部被ばくにつながるのか。それはどのくらいの量で、それは今までのスケール感で見たらどうなんだ。そういうことをきちんと報道していかないと、漁業の復活にならないんです。だからやっぱり僕らはそういうことをやっていかなきゃいけない。

「「寄り添う」と言うこと」

 ということで、やっと締めになります。

 「寄り添う」という言葉、よく言われます。この間、医大の広報の松井先生(註2)がすごくいい言葉を教えてくれて。僕は忘れちゃってたんだけど、『星の王子様』にある言葉だそうなんですけど。同じところに立って、向き合うとはまた違って、「同じところに立って同じ風景を見ること」なんだ、という話をうかがいました。すごくいい言葉だと思ったし、同じ風景を見ても、それぞれ受け取り方は違うかもしれないけれども、やっぱり、個性はあるかもしれないけれど、でも、やっぱり、相手が見ているものを見ない、相手が見ないものを見てしまう、それではやっぱり僕は報道はできないと思っています。

ということで、ちょっと長めになってしまいました。途中、ちょっとはしょってしまいましたが。私の話を終わります。ありがとうございました。

(拍手)

 註1 医療法人神甲会 隈病院(神戸にある甲状腺疾患の専門病院)の院長(2014年4月現在)宮内昭先生
 註2 福島県立医科大学 特命教授・放射線医学県民健康管理センター広報担当(2014年現在)の松井史郎先生
 註3 福島県立医科大学 放射線健康管理学講座・宮崎真助手(2014年現在)



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